「(石川の)傷口をえぐるようで聞けなかった」(福原愛) ~ アスリートとしては弱点でも、彼女のこの性格は人としては間違いなく美点となる ―北川和徳 (Nolanの言葉の贈り物)

今回紹介する日経・北川和徳氏のコラムはいい文章だった。リオ・オリンピックが閉幕に向かう中、日本経済新聞Webで見つけてブログ記事にしようと思っていたが、忙しさにかまけてついついて一ヶ月以上も書かずじまいだった。

そんな矢先、先日、アルコムのとある友人の日記を読み、彼の文章と視点を記録に残したいと思った。下の写真は、その「福原や吉田… 敗れた姿に心動かされた五輪 」と題されたこの北川のコラムからである。

これもアルコムのとある方のF1に関する日記を拝見し、T-SquareによるF1のテーマソング*を聴きながら、 アドレナリン出しながらの記載となってしまいました(笑)


北川はこの文章の中で、勝者として終了間際の大逆転で金メダルを掴んだ伊調馨をまずコントラストとして取り上げる。次に、(メダルを取っているので決して敗者ではないが) あと少しで金メダルに届かなかった卓球の福原愛とレスリングの吉田沙保里を取り上げる。

福原の繊細で優しい性格はアスリートとしては?」と題した数段落では、試合後の取材と思われるが、ビックリしてしまう裏話が登場する。


 福原は個人戦では絶好調で3位決定戦まで戦い、過去に対戦したことのない北朝鮮選手に敗れてメダルを逃した。チームメートの石川佳純(23)をフル ゲームの激戦で下して勝ち上がってきた相手。当然、石川に対策などを聞いて臨んだのかと思ったら、「(石川の)傷口をえぐるようで聞けなかった」

彼が取り上げた裏話は本当だろうとは思うが、念のためさらに裏付けをとりたい。それでも、「えっ、本当??」、正直なところとても驚いた。

対極的な例としてマラソンの有森裕子を思い起こす。

選考が揉めに揉めた1992年のバルセロナ五輪の女子マラソンの選考では私は心情的に松野明美を推していたが、ライバルだった有森(どこかで取り上げたい)は自分に対してはもちろんだが、周りにも厳しく、凄まじいものがあった。

たまたま見たTV番組では支給されたシューズに対して、恥も外聞もなく、鬼のような形相でクレームをつけていた。シューズメーカーか職人に対してかは忘れてしまったが。いろいろな要因はあったと思うが、ある意味、福原のような「優しさ」とは対極にある有森は、バルセロナで銀メダルを獲得した。しかし、その後、けがや小出監督、チームとの不仲もあり、どん底の競技生活に陥ってしまう。それでも不死鳥のように這い上がって、アトランタでは銅メダルを獲得し、彼女は「自分で自分を褒めたい」という名言を残した。

個人競技だけのマラソンと違い、個人戦に加えて、団体戦もある福原は、個人戦と団体戦を含めて女子卓球チームのキャプテンだった(間違っていないですよね…?海外生活なもので…)。しかし、キャプテンのプレッシャーは相当だっただろうと思われる。

実は先日紹介した末っ子が剣道アメリカ代表チームのキャプテンとして来日した際も、アメリカチームのメンバーが慣れない日本で迷子になったりしないよう、また、ホテル等でちょっとしたトラブルがあった際(やはり外国人なのでいろいろあるのです(泣))も彼が相当気を遣っていることが分かった。試合当日以前だけでなく、試合会場に入ってすら、福原も末っ子も、自分の勝負以前にこなさなければいけない役割がいろいろあったことだろう(注**。

いずれにしても、福原は、そして石川、伊藤のチームはよく頑張った。

彼女たちには当然、次の東京オリンピックへの期待もかかってしまう。これはこの道で生きる本人たちは もちろんわかっているし、これはこれで彼女たちへの心からの勲章なのだろう。


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 余談
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注*
T-SquareのTruthという曲です。そこにTime Codeを埋め込みました。将来万が一、Youtubeの仕様が変わり、うまくいかない場合には44:27secくらいからスタートさせてください。



注** というのも、全然次元は違って恐縮であるが、私も某会社のスキー大会で距離スキー・チームのキャプテンを務めたことがある。社内といっても、日本全国からたぶん10以上の事業所から、トップクラスは国体選手を含めて、各大学のスキー部、スキーの盛んな雪国から来た「ツワモノ」が揃う大会である。

しかし、プロではない愛好者による社内大会ということもあって、運営は当然自分たちが行う。ボランティア的なことは学生時代にさんざんやってきて、なおかつ毎日、毎日仕事におけるプロジェクトの遂行とそのメンバーのケアで目一杯の自分としては、オフくらい本当は自分の競技に集中したい。でも、運営の手伝いだったり、他の選手のサポートだったり、自分の競技どころでは全くなかった。

一方で、アルペンも距離部門も運営に携わる上級者が一生懸命に働き、自分たちはもちろん、特に初心者の人たちにも楽しんでもらおうという姿に胸を打たれていた。 自分ができることは率先して行う。それでいて、強い人はそれでも「勝つ」、あるいは「上位につける」のだ。自分の心構えの甘さを指摘されているようで、とても良い刺激となった。

仕事ではシステム統括責任者として担当していた戦略商品が出荷直前のきわどい時期に、ノルかソルかの大会だった。何とか時間をやりくりして、ギリギリ合間を縫って駆けつけたが、個人戦で入賞した後、フィナーレを飾る事業所対抗の距離リレーで事業所として初めてのメダルを獲得することが出来た。しかも手に汗握る接戦を制しての金メダルだった。数年後に再び参加した機会には、そのベストチームとともに(一人メンバーが変わったが)団体リレー優勝に加えて個人タイトルを取ったが(国体が重なり国体選手がおらず、上位全員にチャンスがあった)、最も記憶に残っているのはこの時の初優勝である。

一方、仕事が佳境だったため、大会参加に当たって相当無理をしていた課外活動であるとはいえ、スキー部の一大行事にも自分の全身全霊を傾けたていたことは事実だ。心は集中力で乗り切っていたが、体が悲鳴を上げていた。

最終日、今だから話せるが、すなわち最も大切なリレー当日となる朝、明らかに下血していてることが分かり、さすがに顔が蒼くなった。胃がキリキリ、痛む。その日出場するリレーは確か2kmくらいのsprintなので10分程度だが、準備に奔走し、レースと閉会式をこなすと10時間、それからみんなで車で(確か、当時は)6時間はかかる。素人でも重大さはわかったが、もちろん大会期間中は極秘だ。大会から戻るなり受けた診察では、ドクターが真顔になってすぐさま内視鏡診察をの予約を入れられた。胃の数か所から出血があるという。幸い、大したことはなく、戦略商品を出荷しながら、一ヶ月くらいの食事療法で回復したが。

でも福原にとっては、さすがに、オリンピックでここまでの雑用はないだろう。でも、まだ年端のいかない伊藤、そして妹分であり、最大のライバルである石川と組んだ卓球女子日本を束ねるキャプテンとしてのプレッシャーは10倍、いや計り知れないだろう。

大きな期待とともにメダルが取れなければ、手のひらを返したように、驚くほど残酷になりかねない、我々自身を含めた日本人とマスコミ ― 彼女たちにとっては、感謝とともに対戦相手以上のambivalentなプレッシャーだっただろう。心優しい福原は本当によく頑張ったと心から思う。

泣き虫「愛ちゃん」だった福原は逆に我々が驚くほどに世界を代表する卓球選手となった。そして彼女の引っ張る卓球女子日本は2大会連続となるメダル獲得を達成した。

愛ちゃん、心からおめでとう。チャンスがあれば、また東京で健闘を祈りたい。
 
以下、北川の文章が日経で、万が一、掲載がなくなった場合の記録(抜粋)である。

福原や吉田… 敗れた姿に心動かされた五輪
編集委員 北川和徳

2016/8/22 11:00

 あらためて五輪で金メダルを取るのは本当に難しいことなのだと思う。リオデジャネイロ五輪で日本勢は期待以上と思える活躍でメダルを量産したが、 金メダルに関しては日本オリンピック委員会(JOC)が目標としていた14個には届かなかった。とはいえ、獲得したメダルの数や色の違いを超えて、日本の アスリートがスポーツの醍醐味を存分に味わわせてくれた17日間だった。

終了間際の逆転劇で金メダルが連続したレスリング女子。伊調馨は女子選手として五輪史上初の4連覇を達成した。体操男子団体も個人総合の内村航平も、最後 にひっくり返して金メダルを手にした。バドミントン女子の高橋・松友組も最終ゲーム16―19の窮地から5連続ポイントでこの競技の日本初の金メダルをも たらした。そんな痛快で歴史に語り継がれるような日本の逆転勝利が相次いだのだが、五輪ではいつも勝者の笑顔よりも、うまくいかなかった敗者の姿に心が動 かされる。

 アスリートが4年間、人生の大半のエネルギーを注いでこの場所に立っていると考えるからだろう。やっとたどりついたそこで結果 が出せなかった無念を察すると、いたたまれない気持ちになってしまう。ウサイン・ボルト(ジャマイカ)をすごいなーとは思っても、彼の気持ちをわかろうと は思わない。おそらく、勝者に気持ちが入るのと、敗者に心を寄せるのと、人間には2つのタイプがあるのだと思う。

 最もドキドキして見たの は、卓球の女子団体準決勝で福原愛(27)がドイツ選手に敗れた最終ゲームだった。3―7の劣勢から、恐ろしいような集中力と気迫で打ちまくって6連続ポ イント。勝利を目前にしたところで、今度は4連続でポイントを失って敗れた。ずっと攻め続けたのは福原で、ボールを浮かせてミスを誘う相手の術中にはまっ た。最後は相手の返球がエッジボールになる不運だった。

福原の繊細で優しい性格はアスリートとしては?

 福原はなぜあそこで勝ちきれなかったのだろう。なんの関係があるのかと突っ込まれると困るのだが、結局は彼女の繊細で優しい性格のせいではと思えて仕方が ない。福原は個人戦では絶好調で3位決定戦まで戦い、過去に対戦したことのない北朝鮮選手に敗れてメダルを逃した。チームメートの石川佳純(23)をフル ゲームの激戦で下して勝ち上がってきた相手。当然、石川に対策などを聞いて臨んだのかと思ったら、「(石川の)傷口をえぐるようで聞けなかった」。  取材記者の間でも、気配りを忘れない彼女の記者やファンへの受け答えは時に「神対応」と呼ばれるという。結果次第で互いの人生が変わりかねない勝負をする には、人として優しすぎるのだと思う。スポーツ記者としていろいろなアスリートを見てきたが、個としての戦いで勝ちきることができるのは総じて、周囲に配 慮などせずに自分本位に徹することができるタイプである。

でも、こうも思った。アスリートとしては弱点でも、彼女のこの性格は人としては間違いなく美点となる。福原は幼い頃から天才卓球少女「泣き虫愛ちゃん」として注目を浴びてきた。テレビカメラに追いかけられ、卓球がうまいだけで甘やかす大人も周囲にたくさんいたはずだ。偏見かもしれないが、そんな環境でよくぞこんな立派に育ったと思う。中国で人気が高いのも、その人柄で愛されていると聞く。ドイツに負けた直後も、涙をこらえながら「この負けはすべて私の責任です」と話し、初戦を落とした12歳年下の伊藤美誠を気遣っているようだった。残念ではあったが、少しほっこりするようなうれしさも感じさせてもらった。

The important thing is to identify the "future that has already happened"
Peter Drucker






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