英語学習における「カタカナ発音による英語」の効用と限界についての私見(2)

「カタカナ発音による英語」が通用あるいは有効であると考えられるケース

まず、上記について考察してみたい。いろいろ調べてみると、池谷裕二氏が「怖いくらい通じるカタカナ英語の法則―ネイティブも驚いた画期的発音術 (ブルーバックス)」という本を出している。彼は2007年になるが、同じブルーバックスより「進化しすぎた脳―中高生と語る「大脳生理学」の最前線 (ブルーバックス) 」という秀逸な著書があり、それ以来いくつか彼の著作を楽しんでいる。

英語:カタカナ発音でもいいんじゃないか - 池谷裕二のホームページ
「通じるカタカナ英語 2」 「池谷先生のカタカナ英語の法則」

最初に次の点をお断りしたい。
1. 池谷氏の「怖いくらい通じるカタカナ英語の法則―ネイティブも驚いた画期的発音術 (ブルーバックス)」は読んでいない。米国の地方都市在住のため入手が難しいためである。
2. 池谷氏の主張は上記のサイトからある程度推定した。そのため、彼の主張を十分に理解できていない可能性は高い。
3. 筆者は池谷氏の主張に対して批判する意図を全く持っておらず、 また「カタカナ英語」の是非に対する論争も全く望んでいない。目的は単純に表題についての自分の思索を深め、筆者が親睦を温めている英語学習者と共有することにある。

始めにちょっとした実験をしてみよう。
SpeachnoteというWebsiteがある。Web上でマイクロフォンから取り入れた英語音声をTextに変換するサービスを行っている。おそらくGoogleのVoice Recognitionエンジンを使用しているのだと推測しているが、ちなみにBrowserはChromeを要求する。


まずは私が噛みそうな単語やphraseを試してみた。マイクからの音の拾い方やソフトの性能の課題もあるかも知れないが、気を許して発音しているとfamilyやwoman/womenが誤変換となった。私の課題であるthoroughlyに至っては正解率が0だった。

1. not necessarily
not necessarily, not necessarily, minnesota, not necessarily

2. shortly after
shortly after, shortly after, shortly after

3. Tiger Woods
Tiger Woods tiger Woods

4. woman/women
woman woman women women women woman hooman hooman

5. library
library library

6. family
Comedy family tommy Lee somebody comedy family

7. familiar
familiar familiar familiar familiar

8. go through
go through go through go through

9. flu
Flu flu flu

10. thoroughly
ferrari fidelity karate heart Radio sorry

11. that
Fat that that that dad that that that that


 次に「カタカナ英語」で通じるといわれているものを試してみよう。

「カタカナ英語」で通じるといわれているもの
a. これまでのカタカナ英語      b. 池谷流カタカナ英語
c. 池谷流に多少lやtの子音を強調 d. Nolanによる英語

1) Metal
a. メタル -> Metal,
b. メーロ -> marriott,
c. meh-loh -> menil,
d. metal -> metal

2) Water
a. ウォーター -> water, ulta, water
b. ワラ -> what, Butter, florida, florida, water, water, water, water
water water lola florida
c. ワラ("t"の音を多少入れる)-> weather, water, water
d. water-> water, water, water, water, water,

3) Unbelievable
a. アンビリーバブル -> hungary, unbelievable, unbelievable, humpty Dumpty, unbelievableb.
b. アンビリーボー("r") -> home Depot unbearable,
c. アンビリーボー ("l"の音を多少入れる) -> humbly bow, humbly bow, unbelievable, unbelievable
d. unbelievable -> unbelievable, unbelievable



Websiteにある下記をtry(一部伏字にしているので、池谷氏のwebsiteを参照のこと)
What do you think about it? (どう思う?)は「悪酔い〇〇コ暴れ」で通じる!
より正確には「ワルユーテンカバウレ」とカタカナ置換します

「悪酔い〇〇コ暴れ」
But think about it
New York & Company
What do you think of that
But really think about it
what do you think about it
What do you think about it

「ワルユーテンカバウレ」
Love you think about
what do you think about it
What do you think about it
What do you think about it
what do you think about that

Nolanによる英語発声
What do you think about it
What do you think about it
what do you think about it
what do you think about it
what do you think about it

もちろん、しっかりした実験とは到底呼べず、あくまでも「試した」だけである。また、先に述べたようにソフトウェアもまだ完ぺきではないかも知れない。ひょっとしてアメリカ人、イギリス人といった生身の「ヒト」による認識はまた異なるかも知れない。

またアメリカ人、イギリス人のネイティヴの発音に対してどういう結果となるかは、貴重なコントロールとして今後の課題だろう。

ただ、このちょっとした実験を通して私も、確かに通じるケースはあるだろうとも考えるようになった。さすがに「メーロ」は苦しいと思ったが、「悪酔い〇〇コ暴れ」の正答率が高かったことにはビックリした。しかし、これまでのカタカナ表記でも意図通りに変換されるケースもあるが、米語発音のものには正解率ではやはり到底かなわない。

さらに一方で、池谷氏が「通じた」と結論づけたと仮定すると、その「聴き手」の定義が気になっている。日本人による英語に慣れた英米人、それとも慣れていない英米人だったのだろうか? 複数人で「試してみた」のだろうか。もちろん、彼も科学的な論文を書いた訳ではないだろうと推測しているので、統計的な検定や有意性まで議論できるような検証まではしていないだろうと推測はしているが、何をもって「通じた」と判断しているのだろうか。著書を読んでいないが、興味深いところである。

多少飛躍はあるが、以上の考察、 上記リンクの文章や私がこれまで感じてきたことをもとに、私が考える「カタカナ発音による英語」の効用についてまとめると次の通りとなる。

1. 日本語を習得済みの日本人にとって、発音記号より馴染みやすく、英語に対する敷居が低くなる。
2. 「悪酔い〇〇コ暴れ」(「ワルユーテンカバウレ」)ではないが、通じるケースが間違いなくある
3. 因習的なカタカナ英語の表記(メタルやアンビリーバブルなど)が実際の英語の音と大きく異なる場合に、「カタカナであえて表記すると、このようにも聞こえますよ」という新たな視点を提示することができる。これにより、学習者が「聞き取れる可能性が上がり」、また発話の際に英米人に伝わる「可能性が上がる」。

実はこの3に対して、池谷氏を始めとする「カタカナ発音による英語」 を推奨する人たちには一つの前提、暗黙の了解があるのではないかと私は推測している。確かに昔流行った「空耳アワー」のように多くの日本人にそのように聞こえるケースはあるが、やはり最終的には英語の音と日本語の音は別物だ。

さすがに中学、そして高校と英語を学んできた者は、母音はともかく、子音については/l/ と/r/、/s/と/th/などの違いは「知って」いる。出来るか出来ないかは別として。とすると仮に池谷流で「カタカナ発音」をしたとしても、池谷氏自身、彼の読者や賛同者たちは(例えば)こうした子音の違いを少しでも入れ込もうと努力しているのではないか ― あくまでも日本語の「カタカナ表記」ではあるが、多くの者は「カタカナ表記」通りではなく、多かれ少なかれ英語特有の音を入れ込むことが必要であるという前提があるのではないか。

少し話が逸れるが、例えば、私自身は発音矯正の自己鍛錬で「桑田佳祐の歌い方」ではないが、子音と母音を意識的に切るトレーニングも行っている。英語を話す際にいわゆる「カタカナ的」に子音と母音を同時に発声してしまうと子音の発音が弱くて通じなかったり、子音のすぐ後で「本来は存在してはいけない母音」が発声されることを矯正することを目的としている(ただし、実際の会話では音節数やリズムも大切な要素なので、切り過ぎてはいけないが)。これについては全く自分のアイディアでやり始めたが、同じようなことを言っている人がいたので嬉しかった。

英語の発音、なんでうまいの? 舌べろーん「ままままま」

私も全部は読んでいないが、「あぁ、同じだ」と気になった部分は次の箇所である(筆者による黄色でマーカ部分)。


 「そうですね。『My name is Hiroko Williams』(私の名前はウィリアムス浩子です)と言う場合、日本人は『マイ、ネーム、イズ、ヒロコ、ウィリアムス』と切ってしまいがちです。これを『ムアィヌエイムイ~ズッヒィロクゥオゥウィリアムス』と一語のようにつなげて、一息で出す。そのトレーニングを何度もやってもらいます」
カタカナで表記はされてはいるが、例えば上記の「ムアィヌエイム」の箇所で「ムアィ」の「ム」に/ʊ/の音を入れるて/mʊ-ɑɪ/とするとは彼女(ウィリアムス浩子)は間違いなく、英語に造詣が深いと思われる著者(刀祢館正明)、そして子音が連続するケースが多々あることを理解している池谷氏はおそらく考えていない。「ムアィ」というカタカナ表記を見て、/m-ɑɪ/と捉えているのだ(ただし、最終的な会話では音節数が大切なので必要以上に切ってはならない)。

これが上記で述べた「前提」の内容である。 そしてこの「前提」があれば、先に述べた2は効用となるのだろうと期待できる。


さて、ちなみにこの後、刀祢館の文章は次のように進む。これもまさしく8月中旬から私が取り入れている母音に対して口の形、顎の使い方と舌の位置を筋肉や小脳に叩き込む訓練に相当すると考えている。水泳や自転車のパート・トレーニングではないが使う筋肉や関節を最大限に意識しながら。

私もやってみた。まるで筋トレだ。なんとか一息で言うのは出来た。でも口の動きが小さい。それに比べて目の前の彼女の口の動くこと動くこと。すぼめ、上下に開き、左右に広がり、また閉じる。これが英語の口の動きなのか。中学・高校で教わった人はどれくらいいるだろう。

 「伝えるため、表現するためにスキルを磨き、鍛える。芸術やスポーツと同じです・・・
実はこの訓練をしながら、私だけなのかも知れないが、shortlyなど/ˈʃɔrt·li/などに現れる前後の音の並びによっては/ɔ/や/ɔr/がきれいに出せないケースがある。gulfと聞こえたのか、過去、golf(/ɡɑlf/または/ɡɔlf/)がうまく伝わらないケースが何度か私にはあり、この場合にはまだ日本語の「オ」の音からスタートした方が被害は少ない。

先ほどの3点に加えて、私の場合は口や舌のポジションが分からなくなったら、「もっとも近い日本語の母音から スタートする」という目的で「カタカナ英語」をあえて使うケースがある。もちろん、最終的には英語の音と日本語の音は似ていても違うものだという認識はしっかりと持ちながらではあるが。

ここでは筆者が考える「カタカナ発音の英語」の効用を、その暗黙の前提とともにまとめてみた。次回は「カタカナ発音の英語」の限界と注意点について考えてみたい。

The important thing is to identify the "future that has already happened"
Peter Drucker






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