我々のチームには最高の大将がいた ― アメリカでの団体戦は年齢や民族の違いを超えて

我が家の子どもの剣道の観戦記ですが、早いもので、もう2年半も前の思い出話になってしまいました。

剣道のアメリカ代表チームは日本や韓国に続いて世界でも3位に入りますが、10年程前には日本代表チームを破るという大金星を挙げています。我が家の子どもたちの先生たちがアメリカやカナダの代表選手です(元を含む)。

が、どうしても剣道人口は日本の比ではなく、少年剣道のアメリカ全国大会でも団体戦は各年代層から、そしていろいろな民族からの混成チームになります。

選手層の厚い日本国内の全国大会にはかなわないでしょうが、それでもアメリカ全国大会の上位者は日本の県大会の中・上位、うまくいけば全国大会くらいのレベルにあるといわれています。

ちょっと昔のほろ苦い思い出、親ばか観戦日記ですが、ブログの方に移行させました。

 
写真はその前の年のものです
https://www.flickr.com/photos/30438408@N00/9129057822

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お兄ちゃんの異変に気がついたのは団体での緒戦だった。この団体戦では先鋒から大将まで年齢クラスごとに選ばれる。12・13歳の部の先鋒戦を我が家のチビが無難に取ったが、次鋒が負け。14-15歳の部の中堅戦では、個人戦3位をとったお兄ちゃんに当然期待がかかる。

伏線はあったのだ。団体戦が始まる前、この大会に掛けていた彼は個人戦の準決勝で負けた後、あまりのショックに面をはずすことができなくなっていた。ほんの僅かではあるが、肩が震えている。

彼はこの半年間は自分の道場の練習の他に、チームUSAの代表選手らが主催する週一回のオープン稽古にも欠かさず出て、めきめきと力をつけてきた。準決勝の相手とはその出稽古で普段は互角にやっているという。ところがこのチームUSAのキャプテンが相手側のコーチだったため、皮肉とはいえ、お兄ちゃんの弱点と攻め方について的確なアドバイスを相手は受け、息子は普段の攻めが全く通用しないまま負けてしまっていたのだ。

個人戦の後、「次の団体戦で取り返せ」と気持ちを入れ替えさせていたつもりだった。しかし、決して強いと言えない相手に、気合だけが空回りしてなかなか一本が決められない。そしてもがいているうちに逆に一本取られて、まさかそのまま負けてしまう。後続が勝ってチームは最終的には勝ち上がったが、何となくチームの輪に入り込めず、試合の最中も後も塞ぎ込むようになっている。チームのメンバーも親御さんも励ましてくれるのだが。

親の言うことなどあまり聞かない年代であることに加えてこのような状況下なので彼もいろいろと反発するのだが、何が何でも私から伝えねばと次の3点を彼に諭すこととした。コーチもいたので遠慮もあったが、親だから感じる彼のメンタル的な焦り、すっかり自信を失ってしまっている彼を少しでも楽にしてあげたいという気持ちが手伝ったこともある。勝敗も大事だが、まずは自分のやるべきこと、やれることを精一杯やらせたい。

一つ目は「団体戦なのだから自分が負けたからといって引きこもらない。チームに対してできることはいくらでもある」―基本的には私も体育会系なので、これは息子を叱り飛ばした形だ。

二つ目は「個人戦を見ていても、決してスピードでは負けていない。自信を持っていけ」― 自信を失ってどうしていいか分からなくなっている彼の不安を少しでも取り除いてあげたかった。

そして最後は「ただし、攻めが単調になりすぎて相手に読まれているので、もう少し攻めのバリエーションを増やせ」― 私自身は剣道をたしなまないので、これ以上技術的なことは言えないのだが。
 
これらのアドバイスがどこまで役に立ったかは分からない。しかし、次の試合を1本勝ちして調子に乗ると、準決勝では互角以上の相手に持ち前の勝負強さを発揮し、チームとしての勝敗はタイながらも団体戦を優位にする2本勝ちをおさめてきた。

誰もが優勝を狙って、それを信じていた。が、勝負の世界は甘くない。残念ながらチームは準決勝で力尽きた。

勝ち負けの数の差ではない。わずかに一本の差だった。

先鋒で引き分けてしまった我が家のチビと大将らが泣いている。個人戦の4連覇をわずかに逃した我が家のチビは、自分でも周りからも勝つことが当たり前になりすぎていた一方で、前日は大会会場のあるラスベガスまでの5時間の道中、食事どころか緊張と不安で嘔吐を繰り返していた。

私からはメンタルでも強くなれと逆に喝を入れられてはいたが。また、お兄ちゃんが2本勝ちしていたので大将戦は引き分けでも良かったのだが、試合を有利に進めながらも最後はもったいない反則(竹刀を落としたほか、勢いがつきすぎて場外へ出てしまった)で相手に一本与えてしまった。

我々のチームの大将はとても強く、大将戦まで持ち込めればチームは勝ててきたが、彼には毎度毎度、必要以上にプレッシャーがかかっていた側面もあるかも知れない。

実はお兄ちゃんが団体の緒戦で負けて完全に自分を見失っていた際に、何度も何度も励ましてくれたのが、この韓国人の大将とお父さんだった。本人たちにはもちろん、応援している親たちにとっても口を開きづらい、重苦しい負け方ではあった。が、今度は私の番だ。

「君のおかげで、あなたの息子さんのおかげでチームはここまで勝てて来れたのだ。我々のチームには最高の大将がいた。」

子供たちとって1年間の最大の大会であったが、ちょっぴりほろ苦くも、結果的には我が家の二人とも、そしてチームも十分な成績は残すことができたと思う。そしてたくさんのことを学んだと思う。


さ~てと、お前ら、これからいい加減しばらくは勉強だからな(笑)。


The important thing is to identify the "future that has already happened"
Peter Drucker






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