子どもたちとの「あの夏の思い出」
注)日本に比べてアメリカでは剣道人口が少ないので全米大会でも団体戦は先鋒から大将まで、それぞれ年齢制限があり、年代別の混成チームとなります。ただし、我が家の子どもを含めてアメリカでも上位クラスは日本でも十分に県大会の上位から全国クラスです。
伏線はあった。団体戦が始まる前、この大会に掛けていた彼は個人戦の準決勝で負けた後、あまりのショックにしばらく面をはずすことができず、小刻みに震える彼の肩をみて、しばらく私も声がかけられずにいたのだ。
彼はこの半年間は自分の道場の練習の他に、成年男子のチームUSAの代表選手らが主催する週一回のオープン稽古にも欠かさず出て、めきめきと力をつけてきた。準決勝の相手とはその出稽古で普段は互角にやっているという。ところが、皮肉なことにこのチームUSAのキャプテンが相手側のコーチだった。対戦相手は三男坊の弱点と攻め方について的確なアドバイスを受けていた。息子は普段の攻めが全く通用しないまま負けてしまっていたのだ。試合中に何度も何度も首をかしげる三男坊。それまでの快進撃が嘘のようだった。
個人戦の後、「次の団体戦で取り返せ」と気持ちを入れ替えさせていたつもりだった。しかし、決して強いと言えない相手に、気合だけが空回りしてなかなか一本が決められない。そしてもがいているうちに逆に一本取られて、まさかそのまま負けてしまう。後続が勝ってチームは最終的には勝ち上がったが、何となくチームの輪に入り込めず、試合の最中も後も塞ぎ込むようになっている。チームのメンバーも親御さんも励ましてくれるのだが。
親の言うことなどあまり聞かない年代であることに加えてこのような状況下なので彼もいろいろと反発するのだが、何が何でも私から伝えねばと次の3点を彼に諭すこととした。コーチもいたので遠慮もあったが、親だから感じる彼のメンタル的な焦り、すっかり自信を失ってしまっている彼を少しでも楽にしてあげたいという気持ちが手伝ったこともある。勝敗も大事だが、まずは自分のやるべきこと、やれることを精一杯やらせたい。
一つ目は「団体戦なのだから自分が負けたからといって引き籠もらない。チームに対してできることはいくらでもある」―基本的には私も体育会系なので、これは息子を叱り飛ばした形だ。
二つ目は「個人戦を見ていても、決してスピードでは負けていない。自信を持っていけ」― 自信を失ってどうしていいか分からなくなっている彼の不安を少しでも取り除いてあげたかった。
そして最後は「ただし、攻めが単調になりすぎて相手に読まれているので、もう少し攻めのバリエーションを増やせ」― 私自身は剣道をたしなまないので、これ以上技術的なことは言えないのだが。
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これらのアドバイスがどこまで役に立ったかは分からない。しかし、次の試合を1本勝ちして調子に乗ると、準決勝では互角の相手に持ち前の勝負強さを発揮し、チームとしての勝敗はタイながらも団体戦を優位にする2本勝ちをおさめてきた。「よし、いける」― 誰もが優勝を狙って、それを信じていた。しかし、残念ながらチームは準決勝で力尽きた。
先鋒で引き分けてしまった我が家のチビと、最後の最後で接戦をものにできなかった大将らが泣いている。
個人戦の4連覇をわずかに決勝戦で逃した我が家のチビは、自分でも周りからも勝つことが当たり前になりすぎていた一方で、前日は大会会場のあるラスベガスまでの5時間の道中、食事どころか緊張と不安で嘔吐を繰り返していた。私からはメンタルでも強くなれと逆に喝を入れられてはいたが、彼はまだ弱冠12歳なのだ。
また、三男坊が2本勝ちしていたので大将戦は引き分けでも良かったのだが、試合を有利に進めながらも最後の最後で焦りが生じ、もったいない反則(竹刀を落として反則を取られた後に、勢いがつきすぎて場外へ出てしまった)で相手に一本与えてしまった。我々のチームの大将は強く、大将戦まで持ち込めればチームは勝ててきたが、彼には毎度毎度、必要以上にプレッシャーがかかっていた側面もあるかも知れない。
実は我が家の三男坊が団体の緒戦で負けて自分を見失っていた際に、何度も何度も励ましてくれたのが、この韓国人の大将とお父さんだった。本人たちにはもちろん、応援している親たちにとっても口を開きづらい、重苦しい負け方ではあったが、今度は私の番だ。「君のおかげで、あなたの息子さんのおかげでチームはここまで勝てて来れたのだ。我々のチームには最高の大将がいた。」
子供たちとって1年間の最大の大会であったが、ちょっぴりほろ苦くも、結果的には我が家の二人とも、そしてチームも十分な成績は残すことができたと思う。そしてたくさんのことを学んだと思う。
さ~て、帰ったらもう一つ、一応父親として言わなければならない。「お前ら、これからいい加減しばらくは勉強だからな(笑)」
The important thing is to identify the "future that has already happened"
Peter Drucker
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