翻訳練習(12):人間が持つ「攻撃性」の功罪について

アルコムのPhilさんのお題からです。 内容的にもとても読み応えのある、人間が本能として持つ「攻撃性」に関する文章でした。

精読するぞ その15

Philさんの日記は友人限定となっている可能性がありますが、興味のある方は友だち申請されると良いかもしれません。

とてもPhilさんのペースに追いついていけないのですが、私はたまに取り組むだけでも相当勉強になります。

authorityはきっちり辞書を引けば良かったのですが、「権威」という訳語がいいですね。私は「権力」という一般的ではあるが、ここでは重過ぎる訳語にとらわれていて、childを「若者」とせざるを得ませんでした。


Philさんの訳はいいですね。 「子どもが権威に反抗するとき,その子どもは攻撃的になっている。」 「basis=なくてはならないもの」としました。

「does not stop short at his own fellow」は意味を取り違えていないか不安で、大意をはずさない形で意訳してしまいました。

Philさんが書いてくれていますが、「short」は副詞として次のような使い方があるのですね。

short:(副)急に,だしぬけに


オリジナル英文

To write about human aggression is a difficult task because the term is used in so many different senses. Aggression is one of those words which everyone knows, but which is nevertheless hard to define. One difficulty is that there is no clear dividing line between those forms of aggression which we all deplore and those which we must not disown if we are to survive. When a child rebels against authority it is being aggressive; but it is also manifesting a drive towards independence which is necessary and valuable part of growing up. The desire for power has, in extreme form, disastrous aspects which we all acknowledge; but the drive to conquer difficulties, or to gain mastery over the external world, underlies the greatest of human achievements.
試訳

人間の攻撃性について文章を書くことは容易ではない。というのは、この言葉がとても多様な局面で使用されるからだ。 攻撃性という言葉自体は誰もが知っている言葉のうちの一つに過ぎない。にもかかわらずこの言葉を定義することは簡単ではない。難しさの一つに、誰の目にも 明からに非難されるべき攻撃性と、生存のために必要とされる攻撃性について明確な境界線がないということがある。 若者が権力に対して反抗することは攻撃的であるといわれる。しかし同時に、成長過程の一つとして必要かつ重要な独立心の表れと捉えることもできる。 誰もが知っているように、力に対する行き過ぎた欲求は悲惨な側面を持つ。一方で困難を克服し、世の中を支配したいという衝動は人間が偉業を達成する際にも 必要とされる。
  

オリジナル英文

The aggressive part of human nature is not only a necessary safeguard against savage attack. It is also the basis of intellectual achievement, of the attainment of independence, and even of that proper pride which enables a man to hold his head high amongst his fellows. Without the aggressive, active side of his nature man would be even less able than he is to direct the course of his life or to influence the world around him. In fact, it is obvious that man could never have attained his present dominance, nor even have survived as a species, unless he possessed a large amount of inborn aggressiveness.

試訳 

人類が持つ本能の一部としての攻撃性は動物レベルとしての攻撃に対する防御として必要である。と同時に、知的に何かを成し遂げ、自立し、人間社会において 適度な誇りを持って生きていくためにはなくてはならないものである。 攻撃性、つまり本能の活動的な側面が欠如してしまうと、人間は生活できなくなるだけでなく、とりまく環境に働きかけることすらできなくなってしまうのであ る。人類が、もしこれだけ大きな攻撃性を持っていなければどうだったであろうか。現在のような支配的な地位はもとより、種を存続させることすらできなかっ たことは明らかであろう。
 

オリジナル英文

It is a tragic paradox that the very qualities which have led to man's extraordinary success are also those most likely to destroy him. His ruthless drive to subdue or to destroy every apparent obstacle in his path does not stop short at his own fellow; and since he now possesses weapons of unparalleled destructiveness and also apparently lacks the built-in-safeguards which prevent most animals from killing others of the same species, it is not beyond possibility that he may yet cause the total elimination of mankind.

 試訳

人類をこれほど大きな成功へと導いてきた資質そのものが、裏を返せば人類を滅ぼしかねない資質でもある。なんという悲劇的なパラドックスだろう。 自分の前に明らかに障害が横たわっている場合、これを抑え込み、叩き壊してしまいたいという情け容赦のない衝動に人間は駆られる。そして、それは他者を前 にしても踏みとどまることを知らない。 現在、人類は空前の破壊力を持つ武器を手にした。ほとんどの動物は同じ種で殺し合わないよう本能として持っているというのに、人類は明らかにこの安全装置 を欠いてしまっている。人類が人類を滅亡させてしまう可能性はゼロではないのだ。


お手本の訳
第1段落
 ①人間の攻撃性について書くのは,その語があまりにも色々な意味で用いら れているので難しいことである。②攻撃とは,誰もが知っている言葉の一つであるが,それにもかかわらず定義づけが難しい。③なぜ難しいのかと言うと,一つ には,私たちの誰もが嘆かわしいと感じる攻撃の形態と,もし私たちが生き延びたいと思うのならば,自分とは関係がないと言ってはいられない攻撃の形態と を,明確に区別する一線がないからである。④子どもが権威に対して反抗するときは攻撃的な態度を取っている。けれども,それは成長していく中で必要かつ有 用なものとしての,自立への衝動を表明することでもある。⑤力を求める欲望は,もし極端な形になれば,私たちの誰もが認める悲惨な面を持つ。しかし困難を 克服しようとする,あるいは外界に対しての支配力を獲得しようとする衝動は,人間のこのうえなく偉大な業績の基盤となっている。

第2段落
  ①人間の性質の攻撃的な部分は,残忍な攻撃に対する書くことのできない保護手段であるばかりではない。②知的業績の基礎であり,自立の達成の基礎であり, さらには仲間の間で堂々としていられるための自尊心の基礎でもある。③人間の性質の攻撃的・活動的な面がなければ,人間は本来のように自分の人生の進路を 決めたり,自分の周りの世界に影響を与えたりはできないだろう。④実際,明らかに人間は,生まれつきの攻撃性を多分に備えていなければ,今日持っているよ うな支配力を獲得することも,また一つの種として生き残ることさえもできなかったであろう。

第3段落
 ①人間に並外れた成功をも たらした,まさにこの攻撃性という性質が,同時に人間を滅ぼす可能性が非常に高い性質だというこは,一つの悲劇的なパラドックスである。②自分の通り道に あるすべての目に見える障害物を威圧したい,破壊したいという人間の無慈悲な衝動は,自分の仲間に対してもやにわに抑制されるというようなことはない。ま た人間は,現在比類がない破壊力を持った武器を所有していて,そのうえ同じ種の他のものを殺すことはできないという,たいていの動物に見られる生来の保護 手段を持っていないようなので,人間同士が殺し合い,そのために絶滅してしまうこともありえないことではない。




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